マーガレット・サッチャーも1人の人間だった。
当時のイギリスの時代背景を考えながら、追悼の念を抱だく。
マーガレット・サッチャーを語るためには、当時のイギリスの社会情勢を知る必要がある。
1950年代以降のイギリスは、国民医療保険や年金制度といった社会保障制度を充実させる政策をとっていった。 いわゆる「ゆりかごから墓場まで」だ。
石炭、電力、ガスなどの産業を国有化し、企業活動にも制約を持たせた。
結果として、財政の負担は増え、国有企業は経営の改善努力ないままに国際競争力を失っていった。
その後、1973年のオイルショックをきっかけに、物価の上昇、失業率の増加、断続的なストライキが続くことになる。
1978年末〜1980年初めの冬は「不満の冬」と言われ、病院、学校、ゴミ回収、墓堀人、輸送など、様々な会社でストライキが行われ、その激しさを増していった。
マーガレット・サッチャーがイギリスの首相となったは、ちょうどこの頃のことだ。
サッチャー内閣は、国有企業の民営化、金融引き締めによるインフレの抑制、財政支出の削減、税制改革、規制緩和、労働組合の弱体化などの政策を推し進めていった。
保守的かつ強硬なその性格から「鉄の女」と言われるようになり、その政治手法は賛否の分かれるところである。
彼女の言葉には、信念と理想を感じずにはいられない。
首相として選挙演説時に言った言葉でこのようなものがある。
「不和があるところには調和をもたらしたい。誤謬のあるところには真実をもたらしたい。不信のあるところには信頼をもたらしたい。絶望のあるところには希望をもたらしたい。」
また彼女らしさを感じるのがこの言葉だ。
「言ってほしいことがあれば、男に頼みなさい。やってほしいことがあれば、女に頼みなさい」
本作に写るサッチャーは、その強さよりも、弱さが印象的だった。
老後の痴呆、家庭内の不和、政権時の孤独、そこには1人の人間の抱える苦悩と葛藤があった。
「鉄の女」の人間的な一面を見た時、彼女への親しみに似た感情が湧いた。
また、イギリスの歴史や、時代背景を知ることで、本作(そして彼女へ)の深い理解と味わいが生まれるように思う。