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ロラン・バルト著 「明るい部屋 写真についての覚書」と写真の魅力

Roland barthes lecture jpg 400×266 ピクセル


「明るい部屋」は、写真論の古典と言われています。
写真好き、歴史好きにとっては「読まなければならない」
そんな脅迫観念さえ感じさせる本です。 


よくよく読んでみると、期待を裏切られました。
正直良くわからない、そんな印象の本です。


写真の歴史や、写真家のスタンスなどは書かれていません。
上手な撮り方も、カメラの使い方も書かれていません。
言い回しも難解です。

しかし、期待する内容とは、全く違う内容だったことが
かえって「写真ってそもそも何なんだ」と
考えるきっかけになりました。


ロラン・バルトが書いた本書
正しくは「明るい部屋 写真についての覚書」という題名です。


1 ロラン・バルトについて
2 明るい部屋の構成
3 バルトと写真 
4 まとめ 


 


ロラン・バルトについて


本書の著者、ロラン・バルトについて触れたいと思います。

ロラン・バルトは、フランスの哲学者であり批評家
そしてコレージュ・ド・フランスの教授を務めた人物です。
コレージュ・ド・フランス フランスにおける学問・教育の最高峰で、国立の高等教育機関 Wiki参照)

1915年11月に生まれ、64歳まで生きました。
バルトは幼くして父を亡くし、女手ひとつで育てられたそうです。
ソシュール、サルトルといった人物に影響を受けながら
学問の道を進んだバルト。
彼の関心は哲学にとどまらず、文学や映画、演劇
そして写真へも向けられました。 

父のいない生い立ちや、培われた学問への探求心は
その後の思想や作品に深く影響しています。

モードの体系─その言語表現による記号学的分析




神話作用




テクストの快楽




物語の構造分析




映像の修辞学





など多くの書を残しています。
代表的な作品が本書


「明るい部屋 写真についての覚書」です。 



 


明るい部屋の構成



「明るい部屋」の内容は、大きく2つに分かれています。

第1章 「写真の本性」をさぐるが、やっぱり違ったと思い直す
第2章 「写真を見る経験」について語る


体系だった写真論が書かれているわけではありません。
まわりくどく、内容は分かりにくい。

第1章では
「写真は冒険だ」
「ストゥディウムとプンクトゥムの二つの要素がある」
「撮ること、撮られること、眺めることに注目した」
などと語りながら「写真」を分類します。
バルトなりの写真の役割や意味、楽しみ方を展開したかと思うと
第一章の最後で、一蹴されます。 


「いままで私が述べたことは個人的だったので取り消します」

写真の働きを語ってきたが、写真の本質について説明していない。
そういって、今までの考えを切り捨てるのです。

これからの展開に引きつけられる一方で
今までのは何だったのかと混乱させられます。

「ところで、母の死後まもない11月のある晩…」
という書き出しから第2章が始まります。

第2章はエッセイを読んでるような
あいまいでセンチメンタルな印象です。
死生観や母への思い、時間の概念に触れながら
写真の本質に迫ります。
特に、母に対する思いは強く書かれていて
生い立ちの影響を感じる章です。
 


バルトと写真


第1章、第2章を読んで、バルトの伝えたかったことは何なのか。




それは「写真=それはかつてあった」ということです。




写真は「むかしあったこと」を知らせてくれるモノ。
それこそが写真の本質だと、バルトは言っています。 


 


また写真には、2つの性質があります。

「怖さ」と「イメージ」です。 


 


一瞬を切り取った写真からは
怒りや悲しみ、楽しみや喜びなどを閉じこめた
「感情」を読み取ることができますし
「時代や雰囲気」を感じることもできます。

解釈は人によってさまざまですが
一枚の写真は、見る人に対して
「一方的」に何かを訴えかけてきます。


写真が「怖い」という理由は

何かを思わせたり、感じさせたり、考えさせる。
この「〜させる」ということが、強制的、恐怖的であり
つまりそれが写真の持つ「怖さ」だということです。


 


恐ろしい一面がある一方で
写真は「平凡なモノ」にもなります。


「芸術に近づけた時」と
「一般的に広まった時」です。


「この写真は芸術作品です」と見てもらったり
「この写真は○○の広告です」と広めることで
写真は「イメージ」に変わり、受け入れやすいモノになります。




時を感じさせるリアルなこと=怖さ
一般的で芸術的なこと=イメージ




この写真のもつ2つの性質のことを
「写真のエクスタシー」と呼んでいます。

バルトは、このエクスタシーを選択するのは
自分次第だといって、「明るい部屋」を書き終えました。
 


まとめ


なぜ写真に惹かれるのか。


「明るい部屋」は、いままで曖昧だっだ疑問に
考えるきっかけをくれました。


写真は「撮る人」と「見る人」がいます。
そこには、それぞれの思いがあります。

一枚の写真を通して
「撮る人の思い」と「見る人の思い」が交わり
共感もあれば、反感も生まれます。
写真の魅力は、この「感じる」ことと
「感じ方の違い」にあり
そこにはコミュニケーションが生まれる。
このコミュニケーションが楽しくて
写真に惹かれているのだろう。

僕は本書を読み終わり、そんな考えに至りました。


 


目次


 


1 「写真」の特殊性
2 分類しがたい「写真」
3 出発点としての感動
4 「撮影者」、「幻像」、「観客」
5 撮影される人
6 「観客」――その無秩序な好み
7 冒険としての「写真]
8 鷹揚な現象学
9 二重性
10 「ストゥディウム」と「プンクトゥム」
11 「ストゥディウム」
12 知らせること
13 描くこと
14 不意にとらえること
15 意味すること
16 欲望をかきたてること
17 単一な「写真」
18 「ストゥディウム」と「プンクトゥム」の共存
19 「プンクトゥム」――部分的特徴
20 無意志的特徴
21 悟り
22 事後と沈黙
23 見えない場
24 前言取り消し


II
25 《ある晩……》
26 分け隔てるもの、「歴史」
27 再認・認識すること
28 「温室の写真」
29 少女
30 アリアドネ
31 「家族」、「母」
32 《それはかつてあった》
33 ポーズ
34 光線、色彩
35 「驚き」
36 確実性の証明
37 停滞
38 平板な死
39 プンクトゥムとしての「時間」
40 「私的なもの」/「公的なもの」
41 子細に検討する
42 似ているということ
43 家系
44 明るい部屋
45 《雰囲気》
46 「まなざし」
47 「狂気」、「憐れみ」
48 飼い馴らされた「写真」


訳者あとがき

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